〇2話のつづき・くまーランドの観覧車の中
 美和、目を開けるといつの間にか隣に座った朝陽の顔がすぐ目の前に。
 朝陽、美和にあごクイ。
 
 美和「~~~~っ!!」
   唇が触れる直前に美和が手でガード。

 朝陽「なにそれ」
 美和「それはこっちのセリフ!」
   顔を紅潮させてドキドキしている。

 朝陽「キーホルダーくれたお返しにって思ったのに」
   不満げな顔をする。

 美和(お返しにキス!? 本当の恋人でもないのに……えぇっ!?)
 美和「わたしこういうの初めてで! ええっと……」
   混乱している。

 朝陽、プッと笑って美和を抱きしめる。
 朝陽「かわいいね」

 そんなことをしているうちにゴンドラが地上に到着。
 係員「お疲れ様でしたー! 足元お気を付けください」

 朝陽に手を引かれて降りる美和は、顔が真っ赤。
 
〇週明け 学校・教室・休み時間
 美和、バッグを机の上に置き本を取り出そうとする。
 横を通り過ぎようとした男子Aがバッグにつけているくまのキーホルダーに気付く。

 男子A「あれ? これ同じやつ朝陽もつけてないか?」
 美和「えっ!」(つけてくれてるの!?)

 顔を上げた美和に男子ABが顔を近づける。

 男子A「やっぱり朝陽と付き合ってるってことか」
 男子B「そういうことになるな」にやり。

 美和(どう答えればいいんだろう!?)焦る。

 ぬッと朝陽の手が伸びてくる。
 朝陽「おまえら、美和に顔近づけんな」
   男子ABを手で退かせる。

 男子A「うおっ」
 男子B「牧本さん、これ朝陽からもらったってことでOK?」
 男子B、再び美和に迫る。

 朝陽「そうだよ。もう見るな」
 男子B「いいだろ、減るわけじゃねーし」
 朝陽「減るからダメ!」

 美和「!!」(過保護か!)

 その様子をおもしろくなさそうに見ている女子AB。

○昼休み〜5時間目の授業 学校・教室
 美和と朝陽、屋上での昼食を終えて教室にもどってくる。
 美和、弁当箱をバッグにしまおうとしてキーホルダーがないことに気づく。

 美和「あれ?」
   落ちてないかとキョロキョロ周りを探すが見つからない。

 教師が入ってきて5時間目の授業が始まる。
 キーホルダーのことが気になって授業が頭に入って来ない美和。


○終業後 掃除の時間 教室
 女子A「ねえ! ゴミ箱にこんなものが入ってたんだけど!」
    美和のキーホルダーをつまんでいる。

 美和「あ! それ、わたしの」(落ちたのをゴミと思われたのかな?)
 
 女子A「ホントは気に入らないからって捨てることないんじゃない?」
 女子B「わざわざ当てつけみたいに捨てるとか、性格わる」
    朝陽をチラ見しながら聞こえるように言う。

 美和「返して!」(そんなことしてないのに!)
   女子Aからキーホルダーを奪い返す。

 朝陽、持っていたモップを男子Aに押し付けて怖い顔で美和たちに近づいてくる。

 朝陽「どういうこと?」
 美和(朝陽くん、怒ってる!)焦る。

 女子A「朝陽、こんな子やめときなよー」

 美和、うつむいてキーホルダーを見つめる。
 キーホルダーは汚れて金具がこわされていた。

 美和(ひどい! なにこれ!)

 朝陽「誰が捨てたって?」
 女子B「牧本さんが自分のって言ったんだから、捨てたのだって…ねえ?」
 女子A「だよねー」
 
 美和、涙ぐみながら顔を上げる。
 
 美和「わたし、そんなことしてないから!」
   (捨てるはずない! 朝陽くんと一緒に買った思い出のキーホルダーなのに!)

 美和の頭に朝陽の手がポンと乗る。

 朝陽「わかってる。美和が捨てるはずねーだろ」

 朝陽「おまえらこそ、ゴミ箱あさるとか挙動不審すぎじゃね?」
 女子A「それは」
    たじろぐ。

 男子B「俺ら昼休みに見たぜ。そいつらが牧本さんの机で何かやってたの」
 女子B「それは! ただお昼食べてただけで」
 女子A「うちらが何かした証拠あるの?」

 美和「だったら」
   静かに口を開く美和にみんなの視線が集中する。

 美和「わたしが捨てた証拠だってないよね?」
 女子A「……」
 女子B「それは…そうだけど……」

 美和、キーホルダーを握りしめて毅然と言う。
 美和「壊した人にはちゃんと弁償してもらうから!」

 黙り込む女子AB。
 
 朝陽「わりい、今日の当番代わって」
 男子A「おけ」モップを上げながら。

 朝陽、美和の手を引き2人分のバッグを持って教室を出る。

 ○バス停
 ベンチに座る美和と朝陽。
 いつもはすこし間を空けて座っているが、今はピッタリくっついている。

 朝陽「あんな古典的な嫌がらせ初めてなんだけど」
 美和「ごめんね、巻き込んで」

 美和(これまで朝陽くんが付き合ってきた女子たちは、あっち側の子だったから)

 女子ABを含め派手でキラキラな女子たちと、美和を含め地味でおとなしい女子たちの対比。
 
 美和(わたしが元カノたちとはちがう地味な子だから気に入らないんだよね)

 朝陽「こっちこそごめん」
 美和「でも、いい経験になったよ」
 朝陽「え?」
 美和「わたしね、これまで小説の主人公がイジワルされたときにすぐ許していたの」

 小説のヒロインが嫌がらせを受けながらも、お人よしが過ぎる描写。
 
 美和「それで主人公の器の大きさと優しさが表現できてるって思ってた」

 小説のヒロインが聖母のようになんでも許し、悪役が簡単に改心する描写。
 
 美和「でも実際に経験してみて、そんなうまくいくものじゃないってわかったの」

 女子ABとのやり取りを振り返る。

 美和「大切にしている物を壊されたり嘘をつかれたりしたら誰だって傷つくし、怒るのは当たり前だもん」
 朝陽「弁償してもらうって、カッコよかったよ」(チワワが怒ってるみたいで)

 美和「それがわかってなかったから、コメントでリアリティがないって言われたんだよね」
   手に持ったままのくまのキーホルダーをギュッと握り、朝陽に向かって笑う。

 美和「ありがとう、恋人ごっこに付き合ってくれて。朝陽くんと過ごす全部が小説のヒントになってるよ」

 朝陽、美和の笑顔と強さに胸を打たれる。
 バスが来て立ち上がろうとする美和の手を朝陽が引いて、座らせる。

 美和「?」
 朝陽「これから俺ん|家≪ち≫来ない?」
 美和「え!?」(どういう意味?)

 バスが行ってしまう。

 ドキドキしながら朝陽を見つめる美和。