〇学校・教室(放課後)
 夕焼け空。グラウンドから野球部の金属バットの音が聞こえる。
 誰もいない教室の窓際の席に向かい合って座る美和と朝陽。
 机の上にはタブレット端末。
 朝陽が美和の髪をひと房手に取って唇を寄せる。

 朝陽「じゃあ今日から俺ら、恋人同士ね」
 美和「!!」戸惑いつつ赤面する。

 美和(なんなの、この恋愛小説みたいな展開はっ!)

〇学校の前のバス停
 ベンチに座ってバスを待つ美和と朝陽。
 カチコチに固まっている美和とリラックスしてスマホをいじる朝陽。
 
 通りかかった同級生の男子AB「朝陽またなー」
 朝陽「おー」手を振る。
 男子A「あいつバスだっけ?」
 男子B「知らね」
 男子AB 笑いながら駅方向へ歩いていく。

 美和「藤島くん、もしかしてバスじゃないの?」
 朝陽「うん。電車通学」
 美和「じゃ、じゃあ帰っていいよ?」驚きながら。
 朝陽 にっこり笑う「彼女の見送りぐらいさせてよ」
 美和「!!」(過保護かっ!)

 やってきたバスに乗り込み窓際の席に座る美和。
 ベンチから手を振る朝陽に小さく手を振り返す。
 バスが発車すると、こてんと窓に頭を預ける美和。
 
 美和(なんか、すごいことになっちゃったな……)
 
 バッグからいつものように本を取り出そうとしてやめる。
 美和(ドキドキしすぎて落ち着いて読書なんてできないよ)

〇(回想・美和の自己紹介とこの日の出来事について)学校・教室 授業終了後
 女子A「牧本さんって誰だっけ? 牧本美和さーん?」プリントを配りながら。
 美和「あ、はい。わたしです」

 美和、おずおずと申し出てプリントを受け取る。

 女子B「ちょっと、いま真後ろにいたよ?」
 女子A「だってほんとに知らなかったんだもん」
 笑うふたりの会話を背中で聞きながら席に座る美和。

 美和(わたしはこのクラスで影が薄い)
(1年生の頃は同級生に読書好きな子がいてすぐに打ち解けた)

 木谷志保「これ超おすすめ!」
 美和、志保が本をもっている姿を想像する。

 美和(2年になってクラスが分かれてから、わたしはぼっちだ。といっても……)
 バッグから本を取り出す美和。
 美和(実はそんなに寂しくないんだけどね!)
 美和、ワクワクしながら読書をはじめる。

 美和(主人公に自分を投影して冒険したり恋をしたり……わたしは小説が大好きだ!)
 空を飛ぶ、剣を振り回す、イケメンと見つめ合う自分を妄想する美和。

 美和(そして3カ月前の春休みからは、自分で小説を書きはじめるようにもなった)
 
 タブレット端末でネット小説を執筆する様子。
 
〇回想のつづき 放課後の教室(冒頭シーンの少し前)
 タブレット端末の画面。
 美和「あ……」(またブクマが減ってるー!)
 ため息をついて肩を落とす。

 美和(処女作『嘘つきなきみと本物の恋を』は連載開始から青春ジャンルで人気になった)

 美男美女の高校生カップルが微笑みあっている様子。
 美和(理想の恋愛をぎっしり詰め込んだ妄想が多くの支持を得てブクマもPVもグングン上がっていたのに……)

 小説についたコメント1『いい感じになってきたと思ったら別れそうになっての繰り返しで飽きてきた』
 コメント2『リアリティなさすぎ』
 コメント3『もっとキュンキュンさせてほしいです』

 美和(最近では伸び悩むどころかブックマークまで外されるように……)
 
 美和、涙目で机に突っ伏す。
 美和「どうしよう。どのへんがリアリティないの? キュンキュンな恋ってなに?」
 
 朝陽「日下部ジュリエッタって誰?」
   後ろから覗き込むように声をかける。

 美和「えっ!」
   顔を上げて慌ててタブレットを隠す。

 朝陽、美和の正面に座って机に頬杖をつく。

 美和「ええっと……ウェブ小説を読んでて……」
   (藤島くんがどうしてここに!?)

 朝陽の説明(入学早々カッコいい男子がいると噂になった藤島朝陽。学校一のイケメンで告白する子が後を絶たない)

 朝陽「牧本さんいつも小説読んでるよね」
 美和(わたしの名前、知ってるんだ!)

 同級生だが影が薄い自分のことなど気にも留めていないだろうと思っていたから驚く美和。

 美和「うん」
   (何の用だろう?)

 朝陽、にっこり笑いながら「それで、日下部ジュリエッタって誰?」
 美和「えっと」

 ペンネームの由来説明(憧れの恋愛小説家、草野メロディ先生に寄せたペンネームにした)
 美和(草野メロディ先生の小説には甘さとキュンキュンがあふれている。わたしもそんな小説が書けるようになりたい)

 美和、草野メロディ=素敵なお姉様と思い込んでその姿を妄想。

 美和(日下部ジュリエッタがわたしのペンネームだなんて言えないよ)
 
 美和「この人の小説を読んでいて……」
 朝陽「マイページを開いてネタ切れだって言ってたよね?」悪そうな顔
 美和「!!」(いつから後ろにいたの!?)

 美和、暗い顔でうつむく。

 美和「からかいたいの?」小声で。
 朝陽「え?」

 美和、顔を上げる。険しい表情。
 美和「からかいたいんでしょ! 言いふらせば?」

 朝陽「待て待て」
 朝陽、上半身を起こして両手をあげる降参ポーズ。
 
 朝陽(涙目になったり急にキャンキャン吠えたり忙しいヤツだな……凶暴なチワワか?)
 
 朝陽「怒るなって。イジワルなことを言ったのは認める。ごめん」
 
 美和(あれ? 勝手にチャラチャラした男子だと思っていたけど、実は違う……?)
   「わたしのほうこそごめんなさい。八つ当たりしちゃった」

 事情を説明する美和。
 美和「初めて投稿した小説がいきなり人気になって舞い上がってたの。でも飽きられてきたみたいで……」
   自嘲する。
 美和「付き合った経験もないのに恋愛小説を書くのって難しいね」

 朝陽「手伝おっか?」
 美和「へ?」(どういう意味?)
 朝陽「恋愛してみたいんだろ。恋人ごっこに付き合ってあげるって言ってんの」
 美和「……」

 突然の申し出に戸惑って無言のまま瞬きを繰り返す美和。
 
〇冒頭シーンに戻る
 夕焼け空。グラウンドから野球部の金属バットの音が聞こえる。
 誰もいない教室の窓際の席に向かい合って座る美和と朝陽。
 机の上にはタブレット端末。
 朝陽が美和の髪をひと房手に取って唇を寄せる。

 朝陽「じゃあ今日から俺ら、恋人同士ね」

(回想終了)

〇帰りのバスの中
 美和(どうしてこうなった!?)

 美和の乗るバスが走り去っていく。
 
〇翌朝・美和の自宅の玄関
 美和「いってきまーす」
 美和、寝不足で疲れている様子。

 美和(あれこれ考えて眠れなかった!)
 美和「今日どんな顔して会えばいいんだろ……」

 美和、昨日の朝陽の顔を思い出して頬を赤くする。

〇学校・教室(登校時間)
 おはよー!の挨拶が教室や廊下で飛び交っている。
 朝陽、同級生の男女たちと楽しそうにおしゃべりしている。
 美和、朝陽の背中にちらりと視線を向けて。

 美和(もしかして、昨日の出来事は夢だった……?)
 美和、首を傾げながら席に座りいつものようにぼっちで読書をはじめる。

 バン!と机に手が置かれる(朝陽の手)
 美和が見上げると、朝陽が怖い顔で美和を見下ろしていた。

 美和(!?)