【短】八橋くん、私にかまわないで…!

 あのピーナッツクリーム、一口しか食べてないけど、本当に美味しかったな。

 調べたことがないから作り方はわからないけど、八橋くん、あんなの作れるんだ。

 あのときの印象は最悪だったのにな…。


 ごしごしと浴槽を洗いながら、私の記憶は八橋くんと出会ったときにさかのぼった。



 あれは部屋で勉強をしていたときのこと。

 ピンポーンと家のなかにひびいた音に答えるように「はーい」と言うお母さんの声が聞こえてきた。

 宅配でも届いたのかなと思いながら教科書をめくったら、今度は私に向けた声がして。




『つぐみー、お母さんいま手が離せないから代わりに出てー』


『はーい!』




 大きく答えたあとに、重たいため息をつく。

 私は着ていたパーカーのフードをかぶって、部屋を出た。