【短】八橋くん、私にかまわないで…!



 う、わ。

 この言葉こそ、聞き流してしまえればよかったのに。




『そうだよ~、友哉だってクラスちがうのに、せっかく来たんだし』


『そうそう』




 女子たちの言葉もしっかり聞こえてしまって、視線が右に左に動いた。

 なにも考えられなくて、ただきんちょうと、いやな気持ちがふくれあがっていって、気づいたら無言で玄関のドアを閉めていた。

 4歩先の部屋に逃げこんで、通路に面した窓のカーテンを閉め、ベッドの上で布団をかぶる。


 そこはきっと、私にとって踏みこまれたくない領域だったんだと思う。




「はぁ…」




 ため息の音が、私をいまに引き戻してくれた。

 泡々の手でスポンジを握って、浴槽の床を右から左へ往復する。