月夜の黒猫は、心を攫う


 稀月くんの腕のなかでこっそり苦笑いしていると、床に落としたカバンの中でスマホが鳴った。

 その音を聞いた稀月くんが、私の拘束を解いて眉根を寄せる。

 新しくもらったばかりのスマホには、ほとんど連絡先は登録されていない。

 稀月くん、蓮花さん、大上さん、烏丸さん……。

 それから……。

 考えていると、またスマホが何度か鳴って、「あ」と思い出す。

「大丈夫。たぶん、沙耶ちゃん」

 思い当たる人は、放課後に連絡先を交換した沙耶ちゃんしかいない。

 スクールバッグからスマホを取りだしてみると、やっぱり。

 メッセージアプリに、沙耶ちゃんから連絡がきている。

「ほら、やっぱり……」

 届いたメッセージを稀月くんに見せようとして、私はもう一件、友だち登録されていない人からのメッセージが届いていることに気が付いた。

 しかも、メッセージを送ってきた人が設定しているアイコンの写真に見覚えがある。

「どうしたんですか?」

 スマホの画面を見つめて固まっていると、稀月くんが怪訝そうに訊ねてきた。

「あ、うん……。あのね……、千穂ちゃんからメッセージがきたの」

「千穂ちゃん……?」

「前の学校で仲良かった、千穂ちゃんだよ。沙耶ちゃんが、私がこっちの学校に転校してきたことを千穂ちゃんに伝えたみたい。それで、千穂ちゃんが知りたがったから私の連絡先を教えたって」

 私が説明すると、稀月くんの空気がわずかにぴりついた。