月夜の黒猫は、心を攫う


 五年前に起きたという事件のことを、私はあまりよく知らない。

 小学五年生だったから、なにか記憶に残っていてもいいようなものだけど。

『孤独な魔女の物語』という童話をモチーフにした猟奇的な殺人事件があったことは、戸黒さんに襲われた日の朝に見た情報番組で初めて知った。

 今思うと、五年生のときの担任の先生が「学校の行き帰りは集団で行動するように」と口をすっぱくして言っていた時期があったかもしれない。

 けれど、学校の行き帰りは車での送り迎えが基本だった私にはあまりピンと来ていなかったし。それに、小学生の頃はテレビをつける時間も両親や戸黒さんに厳しく制限されていた。

 稀月くんの話によると、五年前の事件には少なくともRed Witchの二つ以上のグループが犯行に関わっていたようだ。

 バイトを募集するようなアプリで使い魔を集めて、童話のように満月の夜に魔女から《特別な心臓》を奪う。

 魔女から奪った心臓は、どんな病気も治す薬になる。だから、闇のルートでかなりの高額で、秘密裏に売買されるらしい。

 ゆーくんが狙われたのは、アルバイトを終えて施設に戻ってくる途中だった。

 高校生になってアルバイトを始めたゆーくんは、いつか稀月くんと一緒に施設を出てふたりで暮らせるように、お金をためていたらしい。

 ゆーくんがいなくなったあと、稀月くんはゆーくんがなぜ狙われたのか、徹底的に調べた。

 その結果、Red Witchの存在やNWIのことを知り、施設を出て蓮花さんのお世話になることになったらしい。