月夜の黒猫は、心を攫う


「さっき一緒にいたのが、あんたの使い魔? 次の満月の夜は、あいつじゃなくて、オレといっしょに過ごさない?」

 男が目を細めてニヤリと笑うのを見て、背筋がぞわりとした。

 なんか、この人ヤバい……。

「け、けっこうです……!」

 震える声でそう言って逃げようとすると、男が私の腕をつかまえた。

「そう言わずにちょっと話そうよ。外のほうがいいかな」

 ニヤッと笑ってそう言うと、男が私を脇から抱えてファーストフート店から飛び出す。

 その動きは一瞬だった。

 気付くと私は男に抱えられたまま店の外にいて、どこかに連れ去られそうになっていた。

「稀月くんっ……!」

 男の動きが速すぎてはっきりとはわからなかったけど、店から飛び出すとき、こっちに戻ってこようとしていた稀月くんとすれ違った気がする。

 この男が戸黒さんと関係があるのかはわからない。だけど、満月の夜の話をしてたってことは……。

 この男の狙いも、きっと魔女の心臓。連れ去られたら、命を奪われる。

 男の手から逃れようとじたばた暴れてみるけど、風のように走る男は私が何をしてもビクともしない。

 助けて……。

 最初に戸黒さんに襲われたとき、茉莉のためなら心臓をあげてもいいとほんの少し思った。でも、得体の知れない男に心臓を奪われると思うと怖くて仕方がない。