月夜の黒猫は、心を攫う


「なんですか?」 

 私から顔をそらして目を伏せる稀月くんのことをじっと見ていたら、彼が不機嫌そうな声で聞いてきた。

「……、べつに。何でもない」

 わたしが首を横に振ると、「そうですか」と反応したきり、稀月くんが黙ってしまう。

 稀月くん、怒ってるよね。何が地雷だった……?

 ハンバーガーにかぶりつく稀月くんを見つめているうちに、もしかして……と思う。

「あ、の……。稀月くんが怒ってるのって……、今私が、そばにいなくてもいいって言ったから……?」

 ただの自惚れかもしれない。椎堂家のニセモノのお嬢様だったときは、絶対にこんなことは聞けなかった。

 だけど、今の稀月くんになら聞いてみてもいいような気がして。遠慮がちに聞いてみる。

 そうしたら、

「ごちそうさま」

 ハンバーガーを食べ終えた稀月くんが、そう言って立ち上がった。

 食べ終えたゴミを片付ける稀月くんは、やっぱり少し機嫌が悪そう。

「あの、ごめん……」

 私の分のゴミも集めてトレーを運んで行こうとする稀月くん。そんな彼の制服の袖をつかまえて軽く引っ張る。

「ごめんなさい。でも、稀月くんに新しい学校での生活を楽しんでほしいと思ってるのはほんとう」

 稀月くんの袖をつかむ手にきゅっと力を込めると、彼がトレーをテーブルに置き直してため息を吐いた。

「わかってます。瑠璃がどう思ってるかくらい。そばにいなくてもいいって言われて、おれが勝手に拗ねただけ」

「……、うん。私も、本気でそばにいなくていいって思ってるわけじゃないよ」

 実際に稀月くんがそばから離れていったら、私は悲しくなると思う。