月夜の黒猫は、心を攫う


「そんな……。稀月くんだって、友達を作ったり遊んだりしていいんだよ。稀月くんは、もう私のボディーガードじゃないんだから。四六時中、私のそばにいなくたっていいんだからね」

 気を遣ってそう言うと、稀月くんが眉根を寄せてちょっと不機嫌な顔になる。

「おれはもうボディーガードじゃないけど、できれば四六時中、そばにいたいですよ。あなたのことが好きなので」

 稀月くんに不服そうな声で言われて、口に入れかけたポテトがぽろりと落ちる。

 ボディーガードのときは、無表情で口数が少なかったくせに、今の稀月くんは結構なんでもストレートに物を言う。

 私のことが好きで、四六時中そばにいたいって。そんなこと言われたら、動揺しちゃうんだけど……。

 トレーに落ちたポテトを拾うと、もう一度口に入れる。

 俯きがちにもぐもぐと口を動かしていると、稀月くんの視線を感じる。

 顔をあげると、稀月くんが不機嫌そうに、ふいっと顔をそらした。

 険しい表情で周囲を警戒している稀月くんの顔は、これまでに嫌と言うほど見てきたけど、こんなふうに素でちょっと不貞腐れている稀月くんを見るのは初めてかもしれない。

 同じ年の男の子にこんなこと言ったら怒られるのかもしれないけど、なんというか……。

 拗ねてる稀月くんは、ちょっとかわいい。

 私たちがお嬢様とボディーガードとしてではなくて、初めから椎堂 瑠璃と夜咲 稀月という個人としては知り合っていれば、稀月くんは今よりももっと、いろんな表情を見せてくれていたのかな。

 そう考えると、椎堂家での半年間が惜しいなあと思う。