月夜の黒猫は、心を攫う


「稀月くん……?」

「放課後、迎えにきますね」

「うん」

 うなずくと、稀月くんが私の耳元に顔を近付けてきた。

「できれば、離れたくないんだけど」

 私にだけ聞こえるように囁かれた声に、胸がきゅっとなる。

 ボディーガードをしていてくれたときの稀月くんは、私と離れるときこんなふうじゃなかった。

 義務で私のそばにいてくれる。そんなふうにしか思えなかった。

 だけど今の稀月くんは、心から私と離れたくないって言ってくれてるんだ、って。声や表情から感じとれる。

 なんか、はずかしいな……。でも、嬉しい。

 赤くなってうつむくと、稀月くんが名残惜しそうに私の手を離す。

「あとでね、瑠璃」

 ああ、このタイミングで。こんなふうに名前で呼ばれるのはちょっと……。かなりやばいな。

 心臓、ドキドキする……。

 視線をあげて頷くと、稀月くんが目を細めてふっと笑う。その表情が、さらに私をドキドキさせる。

「あとで、ね」

 小さく手を振って、稀月とそれぞれ別々の教室に入ると、香坂さんが横から私の顔を覗き込んできた。