月夜の黒猫は、心を攫う


「それも大丈夫。この香水は瑠璃さんの生まれた月日や時間に合わせて調合したものなの。あなたの使い魔である夜咲くんには何の影響もないから安心して」

「私の生まれた月日に合わせて調合……?」

「実は私、今、大学で香りに関する研究をしているの。その研究データをもとに、瑠璃さんみたいに危険にさらされている魔女のための香水を作ってる」

「そうだったんですか。すごいですね」

 私がそう言うと、蓮花さんが恥ずかしそうに目を伏せた。

「ありがとう。まだまだ不完全なところも多いんだけどね。いつか、NWIに正式に使ってもらえるような製品になるように、今は改良を頑張っているところ」

「へえ」

 すごいな。

 キラキラした香水の瓶を見つめていると、

「お嬢様、烏丸さん。そろそろ行かないと」

 リビングの時計に視線を向けた稀月くんが、私たちに声をかけてきた。

「蓮花~、蓮花もそろそろ大学に向かう時間じゃない? 準備できてる? 送ってくよ~」

 私と稀月くんがリビングを出ようとすると、入れ違いで大上さんがやってくる。

「ありがとう、拓郎。すぐにカバンをとってくる」

 蓮花さんが近付いてきた大上さんの耳の横に手を伸ばすと、彼が嬉しそうに蓮花さんの手のひらに頬をすりつける。

 その仕草が、ご主人様に甘える大型犬みたいで。私は思わず、クスリと笑ってしまった。

「大上さんって、なんか、犬っぽいよね」

 玄関に向かって廊下を歩きながら、こそっとそう言うと、

「よく気付きましたね。お嬢様の言うとおり、オオガミは犬なので」

 と、稀月くんが真顔でうなずく。

「へ?」

 大上さんが、犬?
 
 不思議にと思いながら首をかしげると、少し前を歩いていた烏丸さんが苦笑いで振り向いた。