椎堂家にはもう帰れないし、今置いてもらっている蓮花さんの家だって、いつまでお世話になれるのかわからない。

 でも、稀月くんがいてくれるなら、未来への不安もなくなるような気がする。

「稀月くん、今までも、今日も守ってくれてありがとう。それから……、伝えるのが遅くなっちゃったけど、お誕生日おめでとう」

「ありがとうございます」

 照れながら笑う私を見つめる稀月くんのまなざしは、蕩けそうなほどに甘く優しい。

 綺麗な琥珀色の稀月くんの瞳を見つめ返すのが恥ずかしくて瞼を伏せると、私の髪を撫でていた彼の手が頬へと移動してきた。

 骨ばった稀月の大きな手のひらが、私の頬をそっと優しく包み込む。

「キス、してもいいですか」

 少し緊張しているみたいな、低く掠れた声で訊ねられて、小さくうなずく。

 ドキドキしながら目を閉じると、コツンと、稀月くんがおでこを私のおでこに軽くぶつけてきた。

「いたっ……」

 もしかして、からかわれた……?

 そっと片目を開けて様子を窺おうとしたとき、稀月くんの唇が私の唇に重なった。

 そのまま、ひとつ、ふたつとついばむようなキスされて、呼吸を忘れそうになる。

「好きです……」

 キスの合間に、稀月くんがささやく。

 生まれて初めてのキスは、触れられたところからとけてしまいそうなくらい甘かった。