月夜の黒猫は、心を攫う


「そろそろおやすみになりますか?」

 目をこする私を見て、稀月くんが立ちあがろうとする。

「待って。まだ話す……」

 もう少しそばにいてほしくて駄々をこねると、稀月くんが座っていた椅子をベッドの横にくっつけた。

「だったら、もう少し話しましょう。眠るまでずっとそばにいるので、お嬢様は横になってていいですよ」

「でも……」

「いいから」

 稀月くんが私を強引にベッドに寝かせて、布団をかけてくれる。それから、私の右手を優しく包むように繋いでくれた。

 ドキドキしながら稀月くんの手を握り返したとき、ふと、断片的な記憶を思い出した。

 そういえば、椎堂家に引き取られる前。施設にいたときも、眠れない夜は誰かがそばにいて、私の手を握ってくれたような気がする。

 施設の先生ではなく、同じくらいの歳の男の子の手。

 施設にいたときのことは、もうあまりよく覚えていないけれど、私に優しくしてくれて、よく一緒にいてくれた男の子の兄弟がいた。

 おとなしい私が、他の子に意地悪されたり泣かされていると、よく助けにきてくれた。

 顔はぼんやりとしか思い出せないし、名前も不確か。

 でも、ふたりの男の子のあだ名はなんとなく覚えている。

 たしか、ゆーくんと……。

「……、きっちゃん」

 ぽつり、つぶやくと、稀月くんはビクッと体を震わせた。