月夜の黒猫は、心を攫う


 稀月くんは「なにかあったらいつでもドアをノックしていい」と言ってくれたけど、稀月くんのことを考え過ぎてうまく眠れないっていう理由でも、ドアをノックしてもいいだろうか。

 ベッドから起き上がって、隣の部屋に行くか迷っていると……。

 トン、トン、トン。

 誰かが私の部屋のドアをノックする。

「お嬢様? もしかして、眠れませんか?」

 ドアの向こうから聞こえてきたのは、稀月くんのやさしい声。

 急いで飛びついてドアを開けると、その勢いの良さに、稀月くんがびっくりしたようにまばたきをした。

「あ、あの、えーっと……」

 稀月くんのことを待ち構えてたみたいに飛び出してしまった自分がはずかしい。

「どうして、私が眠れてないって気付いたの?」

「おれは耳がいいので。もしかしたら、眠れないのかなって」

 稀月くんは使い魔だから、五感がふつうの人よりも優れてるらしい。

 もしかして、椎堂の家で暮らしていたときは、私が立てる物音に気付かないフリをしてくれていたのかな。

 そんなことを考えて下を向くと、稀月くんが私の頭に手をのせて、そっと撫でてくれた。

「お嬢様が眠たくなるまで、少しお話しでもしますか?」

「……、する」

 上目遣いに見上げて答えると、稀月くんがふっと笑う。

「少しだけ部屋の中にお邪魔しても?」

「もちろんだよ」

 私はドアを大きく押し開くと、稀月くんを部屋に招き入れた。

「ここに座って」

 ベッドのそばに椅子を運んでくると、稀月くんに座ってもらう。

 それから私は、稀月くんと向かう合うようにしてベッドの縁に座った。