月夜の黒猫は、心を攫う


「なあに? なにか他に必要なものがあった?」

 振り向いた蓮花さんが不思議そうに首をかしげる。

「あ、えっと……、そうじゃなくて……。お礼を言いたくて。同じ魔女とはいえ、見ず知らずの私にいろいろしてもらって、ほんとうにありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げると、蓮花さんがふふっと笑った。

「そうね。父がNWIの関係者だから、うちは昔から行き場のなくなった魔女を助けたり、一時的に滞在できる場所を用意することも多いんだけど……。うちの部屋に住まわせるのは瑠璃さんが初めてかもしれない」

「そうなんですか?」

「そうよ。父や私が瑠璃さんのために動いたのは、夜咲くんのためだからっていうのも大きいかもしれない。彼はいつも、NWIのために頑張ってくれてるから」

 蓮花さんの話を聞いて、おとなに信頼されている稀月くんのことをすごいと思う。

 私と同じ歳の高校生なのに……。

 自分の立場も何知らずに過ごしていた私は、稀月くんからはきっと、とても頼りなく見えただろう。

 少し恥ずかしく思いながら体の前で両手を擦り合わせたとき、左腕につけたブレスレットに右手の指が触れた。

 稀月くんにもらったラピスラズリのブレスレットだ。

 誕生日プレゼントにもらったけれど……、そういえば、私と同日同時間に生まれたという稀月くんも今日が誕生日だったんだよね。

 いろいろなことが目まぐるしく起きた一日だったし、稀月くんの誕生日が今日だってことも初めて知ったから、「おめでとう」も言えていない。

 稀月くんにもらったブレスレットを見つめてチェーンを指でいじっていると、

「そのアミュレット、夜咲くんからのプレゼント?」

 蓮花さんが含みを持たせた声で聞いてきた。

「そう、なんですけど。アミュレットって?」

「魔女が身につける魔除けのお守り。私も持ってる」

 蓮花さんが、首にかけて服の下に隠していたペンダントを見せてくれる。光の加減で紫にも青にも見えるオパールがとても綺麗だ。

「私のアミュレットも拓朗からもらったものなの。使い魔が運命の魔女に渡すアミュレットには、とても強い魔除けの力がある」

「そうなんですね……」

 これはただのアクセサリーではなくて、私のためのお守りでもあったんだ……。

 だから稀月くんは、私がこのブレスレットをつけているのを見たとき嬉しそうにしてくれたのかな。

「気に入った」と言った私に、稀月くんはとても優しいまなざしを向けてくれた。その表情を思い出すと、胸がドキドキしてくる。