月夜の黒猫は、心を攫う


 私が落ち込んでうつむいていると、

「すみません……」

 と、なぜか稀月くんまでがつらそうに謝ってきた。

「稀月くんが謝ることじゃないよ」

「でも、お嬢様が悲しい顔をしているとおれも悲しいので」

 憂いを帯びた目で見つめられて、心臓がきゅっとなる。

 ああ、私も……。好きな人が悲しい顔をしていると、悲しいな。

「ごめんなさい。私、もう悲しい顔をしないようにするね」

「ムリしなくていいんですよ」

「してないよ。ねえ、稀月くん。あとひとつだけ聞いてもいい? 茉莉は、椎堂の両親が私を引き取ったほんとうの理由を知ってたのかな……?」

 椎堂家に引き取られてからからも、私のことをほんとうの姉のように慕ってくれた茉莉。もし、それもウソだったら……。

 そう思ったら少し不安だったけれど、稀月くんは私の質問に首を横に振って否定した。

「いえ。茉莉さんは、何も知らないはずです。お嬢様のことをほんとうの姉妹のように思っていたと思います」

「そっか……」

 茉莉は、何も知らなかった。私が魔女だってことも、どんな病を治す魔女の心臓のことも。

 椎堂家の両親からの愛はニセモノでも、茉莉が私にくれた優しさは本物だった。それだけで、少し心が晴れる。

 でも、私が突然いなくなって、音信不通になったら、茉莉は心配するだろうな。

 満月の写真を送ってくれた茉莉に、最後にメッセージの返事ができなかったことが残念だ。

 窓の外を見ると、茉莉が送ってくれたのと同じ満月が、後ろから追いかけてきていた。

 魔女の心臓がなくても、茉莉の病気が治りますように。

 満月に祈っていると、烏丸さんの運転する車が交差点をゆっくりと右折した。