月夜の黒猫は、心を攫う


「すみません、お嬢様。これまで使っていたスマホは電源を切って、おれのほうで処分させてもらいます」

「え……?」

「GPSアプリが入っている可能性があることと……、もう、お嬢様は椎堂家には帰せないので……」

「それって、茉莉とも連絡をとっちゃだめってこと?」

「すみません。お嬢様を守るためなので……」

 稀月くんが、心苦しそうに言って、スマホの電源を切る。それから、私には返さずに自分のポケットにしまった。

「お嬢様のスマホは、後日新しいものを用意します。ですが、茉莉さんはもちろん、今まで交友関係があった人たちとは連絡を取らないでください。誰がどこで椎堂家の人間や戸黒と繋がっているかわかりませんから」

 稀月くんに言われて、私は少し複雑な気持ちで頷いた。

 稀月くんがここまで徹底するということは、椎堂家の両親は今や私の敵なんだろう。

 戸黒さんが言っていたように、椎堂の両親はきっと、初めから私のことを利用する目的で引き取ったんだ。

 頭では理解しなければと思うのだけど、心でそれを納得するのはとても難しかった。

 六歳で引き取られてから、椎堂の両親は、少なくとも表向きには私にとても優しくしてくれた。

 今まで食べたことのないようなおいしい料理やお菓子を食べさせてくれて、ブランドの服やカバンを与えてくれた。

 はじめて茉莉と一緒に連れて行ってもらったオーケストラのコンサートで音楽に興味を持った私にヴァイオリンを習わせてくれたし、塾に通わせて、レベルの高い私立の進学校に入学させてくれた。

 茉莉の体調がいいときは、家族みんなで旅行に行ったり、レストランで食事をしたりした。

 施設で育った私には、ほんとうの親がどんなものなのかもわからないけど、椎堂の両親は、私にすごくよくしてくれたと思う。

 椎堂家で育てもらった日々が、全部ウソだったとしたら……。やっぱり、せつなくて悲しい。