月夜の黒猫は、心を攫う


 でも……。私は昔から戸黒さんが少し苦手だ。

 三白眼気味の戸黒さんの目は、いつも冷たく、蛇のように無機質で。その目に見られると、理由もなく怯えてしまう。

 戸黒さんと事務的に会話をしている様子の稀月くんを待っていると、戸黒さんのほうが先に私に気付いて振り向いた。

「お待たせしてすみません、瑠璃さん」

 こちらに無機質なまなざしを向けながら、口元にだけ笑みを浮かべる戸黒さん。

「おはようございます」

 私は戸黒さんに挨拶すると、彼の横を早足で通り抜けて、磨いて揃えてある茶色のローファーに足を通した。

 すぐに私のあとを追いかけてきた稀月くんが、靴を履いて先に玄関のドアを開けてくれる。

「行きましょうか、お嬢様」

「うん」

「お気をつけて。瑠璃さん、夜咲くん」 

 冷たい笑みを浮かべた戸黒さんが、私たちに頭を下げる。

 戸黒さんは昔から、毎朝、学校に行く私を玄関で見送ってくれる。

 けれど、私にかけてくれる「お気をつけて」という声のトーンは、仕事に出かける父や買い物や友達との食事に出かける母にかけるときより冷たい。それも、私が戸黒さんを苦手だと思う要因のひとつかもしれない。

「いってきます」

 戸黒さんに挨拶をして玄関を出ると、稀月くんが微妙に距離をとって、私を警護するように後ろからついてきた。