「あ、の……、稀月くん……。私たち、これからどこに行くの?」

 膝の上で繋いだ手を気にしながら訊ねると、烏丸さんが肩越しにちらっと私たちを見てきた。

「夜咲くん。宝生(ほうしょう)家の別宅に着くまでに、きちんと説明しておいた方がいい。Red Witchには戸黒のとこ以外にいくつもカルドがある。彼女が椎堂の手から離れた今、別のカルドが彼女の心臓を狙って動き出す可能性がある」

「そうだね。ちゃんと知っておいてもらったほうが、稀月くんも瑠璃ちゃんのことを守りやすくなると思うよ」

 烏丸さんの言葉に、大上さんがうなずく。

 ふたりの言葉にあまり納得いかない様子で黙り込む稀月くんだったけど……。

「私も、ちゃんと教えてほしい。戸黒さんの話はほんとう? 魔女が存在するのはお伽話の中の話じゃないの? 私は――、ふつうの人間じゃないの……?」

 私が稀月くんの目をまっすぐに見つめて訊ねると、彼が「わかりました」と、観念したように息を吐いた。


「お嬢様の質問にひとつずつ答えさせてもらうと、戸黒の話はほんとうです。お嬢様が図書館で読んでいた『孤独な魔女の物語』は、実話をもとに描かれたフィクションで、魔女はお伽話の中ではなく現実に存在します。だけど、魔法は使えないし、空も飛べない。その代わり、一般的に言われている人間の寿命よりも長生きできる特別な《心臓》を持って生まれます。そういう人間が世界には数パーセントの確率で存在していて、いつの頃からか『魔女』と呼ばれるようになりました。お嬢様は、数そのパーセントの確率で生まれてきた『魔女』です」

「どうして……、戸黒さんや稀月くんたちは私が魔女だってわかったの……?」

 私は、今まで何も知らなかったのに。


「魔女が生まれると、その同日同時刻に、魔女が生まれたのと近い場所で、魔女と同じ痣を持った子どもが生まれます。そのメカニズムは科学的には証明されていないんですが、魔女と対になるように生まれた子どもはみんな、一般の人間よりも感覚が鋭くて、超人的な身体能力を持っています。それが、おれやここにいるふたり、それから戸黒のような人間で、俗称で『使い魔』と呼ばれます。『使い魔』は、『魔女』を守るために生まれた存在です。特に、同日に生まれた『魔女』は、使い魔にとってとても大切な存在で、『運命の魔女』と呼ばれます」


 運命の魔女――。

 稀月くんの琥珀色の瞳にじっと見つめられて、ドクンと心臓が跳ねた。