「おれは初めから、お嬢様を危険にさらすのには反対だった。だけど、おまえらが、Red Witchのアジトを見つけるためにどうしても必要な作戦だって言うから協力してやったんだ。なのに……。結局、蛇玉にやられて戸黒を逃すなんて……。ありえない……!」

 地下駐車場を出たあと、私と稀月くんは烏丸さんの運転する車に乗せられた。

 その車内で、私の隣に座った稀月くんは、さっきからひどくご立腹だ。

「だから、悪かったって……。俺たちだって、こんなつもりじゃなかったんだよ。普通の蛇玉だったら、俺も烏丸さんも戸黒を逃さなかった。だけど、さっきのあれは、俺たち使い魔の嗅覚や視覚を錯乱させて、動けなくするような……。かなり強力なやつだった。実際のところ、稀月くんだって、瑠璃ちゃん守るので精一杯だったでしょ」

「まあ、そうだけど……」

 大上さんに言われて、稀月くんがむっとした顔で口籠る。

「あいつら、たぶん、瑠璃ちゃんのことをまだ諦めてないと思う。次は絶対逃さないようにするから」

「あたりまえだろ。じゃないと、おれが椎堂家に侵入してた半年間がムダになる。でも次は、お嬢様を危険にさらすような作戦には絶対にのらないからな」

 稀月くんが大上さんを威嚇するように言って、膝の上にのせた私の手に触れる。そのままぎゅっと強く握り締められて、私の心臓がドクンと跳ねた。

 私と稀月くんは、毎日のように車の後部座席に隣同士で乗って、学校まで送り迎えをしてもらっていたけど……。

 ボディーガードとして父に雇われていた稀月くんは、これまで不必要に私に触れることはなかった。

 私を守るためにそばにはいてくれたけど、いつだって適度な距離を保っていたし、ましてや、こんなふうに、独占欲全開で手を握られたことなんてない。

 病院の地下駐車場で起きたこともまだ頭の中で整理できてないのに。

 稀月くんの私に対する接し方までもが変わってしまったようで、どうすればいいのかわからない……。

 そして、車に乗せられた私が、今どこに向かっているのかも……。