戸黒さんがニヤリと笑って、手の中に緩く握りしめていたものを地面に落とした。

「やばい……、烏丸(からすま)さんっ!」

 プシューッとスプレー缶から空気の抜けるような音がして、戸黒さんの足元から灰色の煙が立ち込める。

 すぐにバンッと火薬の破裂するような音がして、

「伏せて……!」

 稀月くんが私を抱きしめるようにして押さえながら、地面に伏せた。

 パン、パンッ……!

 続けて何度か破裂音がして、周囲が煙に包まれる。

 煙を吸ってしまって、稀月くんと口を押さえながら咳き込む。

 しばらくして煙が晴れると、手錠をかけられたはずの戸黒さんも、大上さんに取り押さえられていた黒多さんともうひとりの男も、みんな姿を消していた。

「烏丸さん、大丈夫ですか?」


 大上さんが、ケホケホと咳をしながらスーツの男――、烏丸さんに駆け寄る。


「逃げられた……」

 短銃をジャケットの内側にしまいながら、烏丸さんが悔しげに唇を歪めた。