月夜の黒猫は、心を攫う


 そのとき、エレベーターのほうから、黒い人影がビュンッとものすごい勢いで飛んできた。

 次の瞬間には、戸黒さんの前に黒のスーツを着た黒髪の男が立っていて、戸黒さんの顔の前に短銃を突き付けている。

 メガネをかけた生真面目そうな横顔のその人も、よく見れば端正な顔立ちをしていた。


「NWIだ。お前がRed witch 第18ガルドのリーダー、戸黒で間違いないな」

 戸黒さんに短銃を突き付けた男の空気を裂くような澄んだ声が響く。

 スーツの男に訊ねられた戸黒さんは、特に焦る様子もなく、ニヒルな笑みを浮かべた。

「なるほど。夜咲くんは瑠璃さんに執着があったわけではなくて、初めからNWI側だったわけですか。私としたことが、完全に読み違えていたようですね」

 戸黒さんが、私と稀月くんのほうに視線を向ける。三白眼気味のその瞳は、無機質で冷たくて、背筋がゾクリとした。

 ぶるりと震えた私を、稀月くんがそっと抱きしめてくれる。そうされて、ようやく、稀月くんがほんとうに私の味方なのだと実感できた。

 だけど……。

「戸黒。おまえに直接指示を出していたのは椎堂夫婦て間違いないな」

 黒髪のスーツの男が戸黒さんに問いかけるのを聞いて、心臓がきゅーっと締め付けられるように痛む。

 椎堂の両親は、やっぱり私を利用するために引き取ったのだろうか。

 戸黒さんは、何と答えるのだろう。

 少し緊張しながら待っていると、

「それはどうでしょうか。忠実な使い魔は、主人の秘密は話しません。あなたたちだってそうでしょう?」

 戸黒さんは、スーツの男の質問に曖昧な答えを返した。

「まあ、いい。詳しいことは取調べのときに聞かせてもらう」

 スーツの男は、戸黒さんに短銃を向けたまま、左手で彼に手錠をかけた。


「行くぞ、大上(おおがみ)。そのふたりを上の車に――」

 黒髪のスーツの男の人が、大上と呼びながら茶髪の男を振り返ったとき……。