「……、大丈夫ですか?」
ふいに耳元で優しい声がして顔を上げると、さっきまで私にナイフを向けていたはずの稀月くんに抱きしめられている。
「え、稀月くん……?」
「動くなっ! NWIだ」
戸惑っていると、背後から声が聞こえてくる。
恐々振り向くと、黒多さんと私たちを襲ってきた背の高い黒服の男が若い男の人に腕を捻りあげられるようにして捕まっていた。
たったひとりでおとなの男ふたりを捕まえているのは、Tシャツにジャケット、黒のズボンを着た、ふわっとしたミルクティー色の髪の男の人。
見た目にはあまり力があるように見えないのに、涼しい顔で軽々とふたりを押さえているのが驚きだ。
「遅いぞ、イヌガミっ! もっと早く到着する予定だっただろ」
びっくりして目を瞬く私のそばで、稀月くんが叫ぶ。
「イヌガミじゃなくてオオガミっ! こっちにもいろいろ事情があったんだよ」
「なんだよ、事情って……」
茶髪の男の人を睨んで舌打ちする稀月くん。どうやら稀月くんは、彼とも知り合いらしい。
まさかあの人も、稀月くんの仲間で私の心臓を狙いにきたの――?
でも、黒多さんはあの人に捕まってて……。
新たな展開にわけがわからず混乱していると、稀月くんが私の耳元で囁いた。
「お嬢様、怖い思いをさせてしまってすみません……。あいつらが来たから、ここはもう大丈夫です。おれたちは上へ」
「あいつらって誰……? 稀月くんは……、私の敵……? 味方……?」
駐車場の床に無造作に転がる銀のナイフをチラリと見ながら訊ねると、稀月くんが申し訳なさそうに目を伏せた。
「不安にさせてすみません。おれの使命は、初めからずっとあなたを守ることだけです」
「ほんとうに……?」
「ほんとうです。言ったでしょ。何が起きても信じていてほしいって。詳しいことは、戸黒を捕まえてふたりだけになれたときにゆっくり話をさせてください。それから、さっきのお嬢様からの告白の話も……」
稀月くんが私を見つめながら、ふっと口元を緩める。
私を見つめる稀月くんの琥珀色の瞳が、いつもより少し甘いような気がして。こんなときなのに、ドクンと胸が高鳴った。
「え……! こ、告白って……」
もう最期だと思ってつぶやいたひとりごとみたいな「だいすき」の言葉が、稀月くんの耳に届いていたの――?
「おれは使い魔なので、普通の人間より耳がいいんです」
カァーっと耳まで顔を熱らせた私の手を引いて立ち上がらせると、稀月くんが片目を細めてイタズラっぽく笑いかけてくる。



