月夜の黒猫は、心を攫う


『孤独な魔女の物語』が実話で、魔女の心臓が本当の話なのだとしても、戸黒さんが何か他の理由で私の命を奪うためのウソをついているのだとしても……。

 こんなふうに襲われている時点で、戸黒さんが稀月くんに私を殺させようとしていることは確かなのだろう。

 私の両親は、こうなることを見越した上で私を引き取って、こんなカタチで私を殺すつもりで稀月くんを雇ったんだ……。


 稀月くんが私を守ってくれた半年間も、信じてほしいと言っていたのも全部ウソ。

 私は、初めから、両親と稀月くんにずっと騙されていた――。

 そこにはもしかしたら、茉莉も関わっていたのかもしれない。

 そう思うと、怒りよりも悲しみの気持ちが湧き上がってきて……。胸が詰まって、泣きたくなる。

 六歳で施設から引き取られた私には、大切なものはあまりない。

 私を選んでくれた茉莉と、椎堂の両親。それから、ひそかに稀月くんへと抱いていた恋心。

 出会ってまだ半年だけど、私は稀月くんのことが好きだった。たぶん、私の初めての恋だった。

 それなのに――。

 稀月くんにも、椎堂の両親にも騙されていたと知った今、私にはどこにも拠り所がない。

 私は初めから、いてもいなくても一緒だった。

 よかった。勘違いしたまま、おとなにならずに済んで……。


「私の心臓をあげれば、茉莉はほんとうに元気になるの?」

 私の質問に戸黒さんが「そうですよ」と頷く。

「わかった。それなら稀月くん、私の心臓、必ず茉莉のもとに届けてね」

 その口約束が守られても守られなくても、どうでもよかった。

 諦めと覚悟と。その両方の気持ちで、稀月くんにふっと笑いかける。

 そんな私を見据える稀月くんの唇が、何か言いたげにわずかに震えた。