「魔女の心臓を上手に抜き出すことができるのは、私たちのように使い魔と呼ばれる者だけです。とくに、魔女と同日同時間に生まれた使い魔に抜き出された心臓は、最高品度の効き目が出る。これがあれば、茉莉さんの病気はすぐに治るんですよ。瑠璃さん」
ニヤリと不気味な笑みを浮かべながら、戸黒さんが稀月くんの手に何かを握らせる。それは、アンティークの銀のナイフだった。
「さあ、どうぞ。夜咲くん。ほんとうは満月の光が降り注ぐ夜空の下、何も知らないままにあなたを逝かせてあげたかったんですが、どうにも私の夜咲くんへの信頼が足りなくて。仮にも椎堂家のお嬢様であるあなたの心臓をこんなところで奪うことを許してくださいね」
戸黒さんの言葉に、全身から血の気が引いていく。
ナイフを握った稀月くんが、ゆっくりと私のほうを向くのを見て、頭の中がパニックになった。
「稀月くん、どういうこと……?」
泣きそうに訊ねる私に、稀月くんが鞘から銀のナイフを抜いて、その切先を向けてくる。
何がどうなってるのか、全然わからない。
稀月くんは、私のボディーガードじゃなかったの――?
つい数十分前、何があっても自分だけを信じろって。私のことを守るって言ってくれた稀月くん。
そんな彼が、私に刃を向けていることが信じられない。
「どういうことか、最後に教えてあげましょう。瑠璃さん、あなたが椎堂家に迎えられたのは、いつか茉莉さんの病気を治すためにその心臓をもらうためです。魔女の心臓の鮮度が高いのは、十六歳前後。だから夜咲くんには、あなたの心臓がほかに奪われないようにこの半年間警護してもらっていました。かわいそうですが、あなたはずっと騙されてたんですよ。家族と夜咲くんに」
「そ、うなの? 稀月くん……」
半信半疑に訊ねるに、稀月くんは何も答えてくれない。
稀月くんの琥珀色の瞳と彼の手に握られた銀のナイフが、私の問いかけを肯定するように鈍く光る。
「夜咲くん、殺るのはいつでも。君のタイミングでいいですよ。君の運命の魔女にお別れの言葉を伝えてあげてください」
戸黒さんが稀月くんの肩に手を置いて、低い声でうながす。
すると、私を後ろから押さえ込んでいた黒多さんの締め付けが強くなった。
「痛い……」
私が逃げ出さないようにするためだろう。小さく悲鳴をあげるけど、黒多さんは私を離してくれない。
稀月くんも、銀のナイフの先を私に向けて黙ったままだ。



