月夜の黒猫は、心を攫う


「まさか、昨日起きた殺人事件は戸黒さんとなにか関係があるの?」

「直接的な関係はないですが、全く関係がないとは言えないですね。まあ、ひとつ言えるとすれば……。満月の力の意味も儀式の神聖さもまるでわかっていない最近の若い使い魔とは一緒にされたくないってことくらいですかね」

「何の話……?」

 儀式とか使い魔とか。戸黒さんの言ってることは、たぶん普通じゃない。

「何も知らない瑠璃さんは、私がおかしな話をしているとしか思えないでしょうね。別に構わないですよ、どう思われようと。どうせ、あなたはもうすぐこの世からいなくなる」

 顔をしかめる私を見おろして、戸黒さんがふっと笑った。

「瑠璃さん、あなたは《特別》な心臓を持つ魔女です。私たち『Red Witch』は、どんな病も治すことのできる魔女の心臓がほしいんですよ。魔女の《特別》な心臓。それを必要としている人のもとへ届けるのが、『Red witch』の役目です」

「な、何言ってるの。魔女とか、病気を治す心臓とか……。そんなの作り話でしょう」

 戸黒さんが大真面目な顔で童話の設定を口にするから、顔がひきつってしまう。

 昨日の夜の事件も、五年前の事件も、『孤独な魔女の物語』がモチーフになったのではと話題になっただけ。

 魔女も、病気を治す心臓も、現実にあるわけない。

「ああ、Witchの書いた童話についてご存知でしたか。あれは作り話じゃありません。Witchが書いたあの話は、ちゃんと実話が元になってるんですよ。まあ、ほとんどの人が信じていないですけど。だからこそ、魔女の心臓は闇ルートで高く売買されるんです」

 ニヤリと笑って小さく肩をすくめた戸黒さんが、

「さて、おしゃべりはこれくらいにしましょうか」

 そう言って、スーツのジャケットの内側に隠していたものを取り出す。