月夜の黒猫は、心を攫う


 プツン——。

 マグカップを片手に話に聞き入っていると、突然、テレビの電源が落ちた。

 はっとして横を見ると、高校の制服に着替えた稀月(きづき)くんが、ちょうどテレビのリモコンを食卓に置くところだった。

「おはようございます、お嬢様。そろそろ朝食の時間は終わりです。急がないと遅刻しますよ」

 淡々とした稀月くんの低い声と、無表情な琥珀色のまなざしに、私は今日も少しドキリとする。

「おはよう。すぐ準備してくる」

「はい」

 マグカップのカフェオレを一気に飲み干すと、私は広い家の廊下を走って部屋に戻った。

 制服のブレザーを着て、軽く髪を整え、革製のスクールバッグを持って部屋を出る。

 玄関に行くと、稀月くんと椎堂家の執事の戸黒(とぐろ)さんが話していた。

「それでは、瑠璃(るり)さんにもそのように伝えてください」

 戸黒さんが話しているのは私に関することみたいだ。

 戸黒さんは、もともとは母の実家で働いていて、母の結婚を機に椎堂家で働くようになった。

 椎堂家に来てからの働きぶりを父にも認められて、今では椎堂家のことをいろいろ任され、椎堂家で働く使用人達の取りまとめもしている。

 小さな頃から私の一日のスケジュールを把握して管理し、両親に伝えているのも戸黒さんで、たぶん彼は、両親以上に私のことをよく知っている。

 母の実家から来たということは、年齢もそこそこいっているはずだけど……。戸黒さんの見た目は若くて私が幼いときからあまり変わっていないように見える。

 背が高くて、どちらかというと顔立ちの整っている年齢不詳な戸黒さん。私は彼が、椎堂家の一部のお手伝いさんのあいだで人気があるのを知っている。

 仕事ができる人間は、どこの世界でもかっこよく見えるものなんだろう。