人気のない病院の地下駐車場。ここにいるのは、背の高い黒服の男以外は全員椎堂家に関わる人間ばかり。
怪しい組織に誘拐されてしまうのかと思ったけれど、状況的にそういうのとは違うような気がする。
稀月くんの反応を聞く限り、彼も戸黒さんがこの時間にこの場所に現れることを知っていたみたいなのだ。
彼は父に雇われた私のボディーガード。
私が危険にさらされないようにいつも警戒して、さっきだって「今日は一日気を抜かないように」とか「自分を信じるように」とか言っていたのに。
「稀月くん、戸黒さん……これ、どういうこと……?」
もし仮に、お誕生日のサプライズだったとしたら……。あまりにも趣味が悪すぎる。
顔を引きつらせながら訊ねると、稀月くんが私を振り返って、すぐに気まずそうに目をそらした。
周囲を威嚇するような稀月くんの眦の上がった鋭いまなざし。それが、今はどこか自信なさそうに見える。
「稀月くん……?」
不安になってもう一度呼びかけると、コツリ、コツリと駐車場のコンクリートを鳴らしながら歩み寄ってきた。
「そんな不安そうな顔をしないでください、瑠璃さん」
目の前に立った戸黒さんか、私の顎をつかんでグイッと顔を上げさせる。
私を見下ろす、戸黒さんの冷たい瞳。ずっと苦手だと思っていたその瞳に見つめられて、怯えずにはいられない。
それでも、私は曲がりなりにも椎堂家の娘で、戸黒さんは椎堂家に仕える執事。
私に危害を加えたら、さすがに両親だって黙ってはいないはずだ。
「戸黒さん、どういうことですか……? こんなことしたら、私の両親が……」
「黙っていないですか?」
震える声で訴える私と違って、戸黒さんはやけに余裕そうだ。
「大丈夫ですよ、瑠璃さん。今からここで何が起きても、その真相は誰にも解明できない。ただ、明日の朝になれば、心臓を抜かれて死んでいた少女の遺体が見つかったというニュースが報道されるだけです」
心臓を抜かれて……?
戸黒さんの言葉に、今朝の報道番組で見た怪奇的な殺人事件と『孤独な魔女の物語』の結末が頭を過ぎる。



