「はーい、夜咲くん。そこまで。名演技だったよ。かっこいいなあ、夜咲くんのボディーガードっぷり」
車から降りてきた男が、私たちを見てパンパンッと拍手する。その人は、椎堂家の執事の戸黒さんだった。
薄暗い駐車場で、戸黒さんの蛇のような三白眼気味の瞳が光る。その目は、ゾクリとするほど冷たい。
「驚かせてすみません、瑠璃さん。ほんとうはもっとスマートにあなたのことを連れ去る予定だったんですが、少し確かめたいことがあったので」
驚いて目を瞠る私に、戸黒さんがふっと笑いかけてくる。
なにがどうなってるの――?
けれど、私の驚きはそれだけでは終わらなかった。
「ありがとうございます、黒多さん。もう顔を見せても大丈夫ですよ」
戸黒さんがそう言うと、私を後ろから押さえつけていた男がサングラスをはずす。
まさかと思って振り返ると、私に襲い掛かってきて羽交い絞めにしていた男は運転手の黒多さんだった。
「え、なんで……」
「どういうことだ。聞いていたのと話が違う」
動揺する私の声を、稀月くんの叫び声がかき消す。それを聞いて、私はもっとわけがわからなくなって混乱した。
「当然だよ。蛇の使い魔は他の種に比べて疑り深いんだ。突然現れた猫をそう簡単に信じるわけない。だから念のため、君にも罠をかけさせてもらった。予定外のことが起こったときに、君がどんな行動をとるかね」
「彼女を絶対に危ない目には合わせないって約束だっただろ。それに、お嬢様がおれの運命の魔女だってことは、おまえに受けさせられた検査で証明できてるはずだ」
「そうだね、それに関しては疑ってないよ。最近はほぼ100%正確な判定が出るから。瑠璃さんは、君と同日同時間帯に生まれてきた運命の魔女なんだろう」
威嚇するように唸る稀月くんを見て、戸黒さんがふっと笑う。
「だったら――」
「どうして疑うのか、って? その理由は、夜咲くん。君自身が一番よくわかってるはずだよ」
「どういうことだ?」
「君がうちに来たときから違和感を感じてたんだ。半年前に初めて瑠璃さんに会ったにしては、君が彼女を見つめる目に執着がありすぎる。それで、よく調べてみたら、君はほんとうは瑠璃さんと同じ施設の出身だよね。だからもしかしたら、俺がまとめる蛇のガルドが瑠璃さんの心臓を狙っていることをわかっていて、彼女を助けるために近付いてきたのかなって」
「ち、がう……。おれは、椎堂からもらえる金が目的で――」
「そう言ってたね。だったら、今この場で証明してもらおうかな。夜咲くん、君が裏切り者じゃないってことを」
稀月くんと戸黒さんのあいだで進んでいく話に、私は置いてけぼりのまま。ついていけない。



