どういうこと……? まさか、稀月くんがこの男の人を倒したの……?
「さすが、力のある使い魔は動きが違うな。念のために警戒しておいて正解だ」
私が驚いて目を見開いていると、稀月くんの向こうで背の高い黒服の男がふっと笑う。
「だが、俺はそいつより力があるぞ」
男がそう言って、シュッと跳び上がる。その次の瞬間、男が稀月くんの目の前に現れた。
瞬間移動を使ったのかと思うくらい、男の動きは速い。
けれど、稀月くんの動きも驚くほどに俊敏だった。
ニヤリと笑いながら飛びかかってきた男を躱すと、その腕をつかまえて、腹部を膝蹴りする。よろけた男の足を引っかけて倒すと、稀月くんが男を私から遠ざけた。
大人の男相手に、稀月くんは少しも負けていない。
めちゃくちゃ強いうえに、キレのある動きにはムダがなくて、アクション俳優みたいだ。
お父さんは、稀月くんの強さを知ってて私のボディーガードにしたんだろうか。
茫然と見ていると、稀月くんが男の腕を押さえながら振り返る。それから、険しい表情で私を睨んできた。
「ぼーっとしてんな! 逃げろっ!」
強い口調で命令されて、ハッとする。
逃げる――?
そうだ。稀月くんの言うとおり。今のうちに誰か助けを呼びに行かなきゃ。
よろよろと立ち上がると、エレベーターのほうに足を向ける。そのまま駆け出そうとしたとき……、後ろから誰かに髪をつかまれて引っ張られた。
「痛っ……」
強い力で引きずられて、後ろから羽交締めにされる。初めに稀月くんに倒されたサングラスの男が起き上がって私を捕まえたのだ。
「離してっ……! 稀月くんっ!」
咄嗟に叫ぶと、気付いた稀月くんに向かって飛んでくる。
そうして、私を拘束する男を引き剥がそうとしたとき……。
バンッ。
駐車場に停めてあったうちの黒い送迎車の後部座席から、誰かが降りてきた。