「お前たちは何だ……?」

 稀月くんの威嚇するような低い声が駐車場に響いた。

 身構える私たちの前で、黒服の男たちは無言で互いに視線を交わし合う。

 私が稀月くんの後ろで震えていると、ふたりの男のうちの背の高いほうが一歩前に進み出てきた。

「魔女の使いで迎えに来た。その子をこちらへ」

 進み出てきた男が奇妙なことを言いながら、私たちに白の手袋をはめた右手を差し出してくる。

 魔女の使い——? 

 大人の体格のいい男が大真面目な顔で口にした言葉には、違和感がある。

 魔女ってなに? 怪しい組織がらみの誘拐——?

 もしかして父の会社が、なにか裏組織に恨まれるようなことでもしたのだろうか。

 すーっと身体が冷たくなって、恐怖で足がガクガクと震える。

 大人の男二人に対して、ボディーガードとは言え、稀月くんは華奢な高校生の男の子だ。相手が本気を出せば、勝ち目はないだろう。

 恐怖に震えながら、なんとか助かる方法はないかと考える。

 男達の隙をついて、私か稀月くんのどちらかだけでも逃げられれば助けは呼べる。

 もしくは、運転手の黒多さんが来てくれたら……。

 そういえば、私たちに地下駐車場に来るように言った黒多さんはどこにいるんだろう。

 駐車場に停めてある黒の送迎車。その運転席には誰もいない。もしかして、この黒服の男たちに何かされたんじゃ……。

 手足の震えが強くなって、縋るように稀月くんの制服のガーディガンの裾をぎゅっと引っ張ると、一瞬驚いたように振り向いた稀月くんが、後ろ手に私の震える手をそっと包んでくれた。

 温度の低い稀月くんの手のひらの感触。それが、ほんの少し私を落ち着かせてくれる。

「おまえたちに、お嬢様は渡せない」

 稀月くんがきっぱりとした声で言うと、背の高い黒服の男が怪訝そうに眉をひそめた。

「……、そうか。聞いていた話と少し違うな。そういうことなら、こちらも遠慮はしない」

 背の高い黒服の男がそう言うと、後ろに控えていたサングラスの男がものすごい速さで飛び出してきた。

 弾丸のように飛んできた男が、稀月くんの顔の前で拳を振り上げる。

 だめ、やられる……!

 反射的に目をつぶってその場にしゃがみこんだとき、すぐそばでドカッと、ドカッと何度か人を攻撃するような鈍い音がした。

 低いうめき声と苦しそうな呼吸音。目を閉じていても聞こえてくる音で、なにが起きたのかが想像できてしまう。

 どうしよう……、稀月くんが……。

 泣きそうになりながら恐々目を開ける。

 けれど、座り込む私の前には、両足でしっかりと立つ稀月くんの背中があって。彼の足元に黒服の男が倒れていた。