「誰にも……?」

「万が一にも、ドアの向こうの茉莉さんに聞かれないように」

 そう言うと、稀月くんが私と繋いだ手をぎゅっと握りしめてきた。

 どうしたんだろう。今日の稀月くんは、少し様子がおかしい。

 握りしめられた手を気にしながらドキドキしていると、稀月がまっすぐに私を見つめてきた。

「お嬢様にお伝えしておきたいこと――。いえ、お願いがあります」

「なに?」

「この先どんなことが起きても、おれのことだけ信じていてくれませんか」

「どんなことがって……。なにか起きるの?」

「今は詳しいことは言えません。だけど、あなたのことは、おれが必ず守ります」

 稀月くんがあまりに神妙な顔付で話すから、私はなんだか少し怖くなった。

 稀月くんと出会ってから、まだ半年。

 鋭いまなざしをした、美しくてどこかミステリアスな雰囲気のある彼について、私は知らないことだらけ。

 茉莉にも聞かれたらいけないというところや、詳しいことは話せないというのが少しひっかかるけど……。

 父との契約どおり忠実に私に仕えている彼は、嘘を吐くような人ではないと思う。

「……、わかった。信じる」

 わずかな不安はあったけれど、稀月くんのことを信じて頷く。それと同時に、握りしめられていた手がそっと離れていった。