月夜の黒猫は、心を攫う


「お姉ちゃんが茉莉のこと大好きって思ってくれてるのは嬉しいけど……。もし茉莉に心臓をくれたら、お姉ちゃんいなくなっちゃうじゃん。茉莉、そんなの嫌だよ」

「ご、めん……」

「謝らないで。大丈夫だよ。茉莉はちゃんと元気になるから。高校生になったら、普通の生活ができるようになるといいなあ。そうしたら、お姉ちゃんや稀月くんと一緒に学校に行きたい」

 無邪気に微笑む茉莉は可愛い。

「そうだね。茉莉が早く家に帰ってこれるといいね」

「うん」

 茉莉は私に頷くと、稀月くんのほうを見た。

「ねえ、稀月くん、そのときは、茉莉のボディーガードにもなってほしいな」

 可愛い茉莉から上目遣いにお願いされて、稀月くんが困ったように少し笑う。

 茉莉は優しくていい子で、椎堂家の正真正銘のお嬢様。大好きで大切な、私の妹。

 それなのに、茉莉に対する稀月くんの曖昧な反応が、私をまた複雑な気持ちにさせる。

 ああ、そうか……。茉莉が元気になるっていうのは、そういうことでもあるのか……。

 元気になった茉莉が父に頼めば、稀月くんはきっと茉莉のボディーガードになるんだろう。

 お姫様みたいに可愛い茉莉と綺麗でかっこいい騎士(ナイト)のような稀月くんは、すごくお似合いだ。

 でも、そうなったら私は……。

 茉莉に対して、またモヤモヤした感情を抱いてしまう自分がいて。そんな自分は、心が狭くて醜いと思う。

 無垢で心の綺麗な茉莉なら、きっとこんな感情は抱かない。

 ふたりのことをぼんやりと見つめながら、私は膝の上でぎゅっと手を握りしめた。