『この童話は挿絵がとても美しいんですが、子どもに読みきかせるには少し残酷な描写もあり、五年前の事件が起きるまではあまり知られていませんでしたね。何百年も孤独に暮らしてきた魔女は、病気のお姫様と出会って友達になります。けれど、お姫様が病気で命を落としてしまいそうになり、魔女はお姫様を助けるために不治の病をも治すと言われる自分の《心臓》を抜き出して捧げるという……、そういう流れのお話ですね。この作品の作者はウィッチとという方で、この話以外は世に出ていません。五年前にこの作品が事件とともに話題になったときには、魔女という意味を持つウィッチという作者がほんとうに存在したのかということも取り上げられました』

 そんなふうに説明したあと、司会者がゲストとしてスタジオに呼ばれた元警察官のほうに顔を向ける。

『本日は、垣田さんにも詳しくお話を伺えればと思っております。五年前の《孤独な魔女の物語》事件は犯人が見つからないまま未解決ですよね。どの被害者にの事件現場にも銀のナイフという証拠が残っているのに、それ以外には犯人の痕跡すら見つからなかった。今回の犯行も、同じ犯人の可能性があるんでしょうか』

『そうですね……。犯行のやり口や被害者の状況を考えると、その可能性は否定しきれません。ですが、五年も前の事件ですので、同一犯というよりは過去の事件を真似た模倣犯の可能性もあります。というのも、五年前の事件は必ず満月の夜に犯行が行われていました。ですが今回は……」

「今回も満月でしたよね? 私、昨日の夜に綺麗な月を見ましたよ」

 元警察官の話の途中で、コメンテーターの女性タレントが身を乗り出す。

「たしかに昨日は綺麗に月が出ていましたが、実は満月は今夜なんです。ですのでやはり、今回の事件は――」