今年で中学三年生になる茉莉は、中学生になってから数えるほどしか学校に行けていない。
茉莉は生まれつきに心臓が悪くて、無理して身体に負荷がかかると発作が起きてしまうのだ。
そんな茉莉のことを両親は過剰に保護していている。茉莉だって、いつも体調が悪いわけではないのだろうけど、よほど体調が良いときにしか、病院の外に出してもらえない。
だから、茉莉にとっての私は、数少ない外の世界とのつながりのひとつだ。
広くて豪華だけれど、退屈な病院の個室。一日のほとんどの時間をここで過ごさなければならない茉莉のことを、不憫だと思う。
「そういえば……、今日は稀月くんは?」
ポットに作った紅茶をカップに注ごうとすると、茉莉が個室のドアの外を気にするような仕草を見せた。
「部屋の外で待ってるよ」
「遠慮せずに入ってくればいいのに。お姉ちゃん、稀月くんにも声かけてあげてよ。シュークリーム、いっしょに食べたい」
甘えるような、少し潤んだ瞳で茉莉が私を見つめてくる。
昔から私は、茉莉のこの目に弱い。茉莉のためなら、なんでもしてあげなきゃという気持ちにさせられる。
私は小さく頷くと、稀月くんを呼びに個室を出た。
半年前に稀月くんが私のボディーガードになったとき、茉莉はとても驚いていた。
病気の茉莉にならともかく、健康なただの女子高生の私にボディーガードをつけた両親の過保護さにはもちろん、その男の子が整った顔をした男の子だったことにもだ。
あまり学校に行けない茉莉は、同じ年頃の子と話す機会がほとんどないし、ましてや男の子となんて顔を合わす機会もない。
だから、最近は私がお見舞いに来ると稀月くんのことを気にしてソワソワしている。
これは私の推測だけど、茉莉はたぶん、稀月くんに恋をしている。