総合病院の上階にあるVIP用の病棟。そのなかにある個室のドアをノックすると、「はーい」と少し幼さの残るかわいい声がした。
スライド式のドアを開けて中に入ると、ベッドに座っている妹の茉莉が嬉しそうに笑う。
「お姉ちゃん、来てくれんだ」
「うん。今日はヴァイオリンのレッスンが休みになったから。茉莉の好きなお店のシュークリーム買ってきたよ」
「わあ、ありがとう」
「紅茶入れる?」
「うん、茉莉も手伝うよ」
私がシュークリームを個室のテーブルに置いて備え付けの簡易キッチンでお湯を沸かす準備を始めると、ベッドから降りた茉莉がそばに寄ってきた。
「お姉ちゃん、今日は学校どうだった?」
シンクの上の棚からカップを取り出しながら、茉莉が訊ねてくる。
「うーん、どうってこともない。いつも通りだよ」
私が答えると「えー、なんかあるでしょ」と茉莉が笑う。
病院に来ると、茉莉は私に学校のことをいろいろ聞きたがる。
それに対して、私はいつも、何をどんなふうに話せばいいのか困る。
楽しいと言えば、自慢げに聞こえるかもしれないし、つまらないと言えば、学校に行けるくらい健康なのにと嫌味に思われるかもしれない。そういうことを、私は頭の中ですごく気にしてしまう。