月夜の黒猫は、心を攫う


「お嬢様」

 図書館を出たところで、稀月くんが私の左手をつかまえた。

 ドキッとして振り向くと、稀月くんが私の手首を見つめている。

「稀月く……」

「これ、つけてくれたんですね」

 稀月くんが見ていたのは、今朝誕生日にもらったブレスレット。

「あ、うん……。かわいくて、気に入ったよ。ありがとう」

「気に入っていただけてよかったです」

 照れながらお礼を言うと、顔をあげた稀月くんの眦がほんの少し下がる。表情のゆるんだ稀月くんに、ドキンと私の胸がなる。

 はずかしくて稀月くんの顔をまっすぐ見れずにいると、彼が私の左手をきゅっと握った。

「さっきの言い方はやっぱりおれが悪かったと思います。だけど、これだけは知っててください。おれはお嬢様を守るためにいるので。心臓はもちろん、あなたの髪の毛一本だって、誰かに渡すつもりはありません」

 稀月くんの穏やかな低い声が耳に届く。

 彼の言葉に、鼓動が高鳴る。

 もしも稀月くんが私の恋人だったら、こんなのものすごい殺し文句なのに。

 でも、稀月くんは私のボディーガード。

 父との契約があるから、彼は私のことを大切に守ってくれるんだ――。