月夜の黒猫は、心を攫う


「私が魔女だったら、病気の茉莉のために心臓をあげられたのかな……」

 なんとなしにつぶやくと、稀月くんがすごい勢いで私を振り返った。

 眦の少し上がった稀月くんの瞳が、私を貫くようにまっすぐに見つめてくる。

「冗談でも、そんなバカげたこと口にしないでください」

 いつになく冷たい稀月くんの声音に、ぞくりと背筋が震えた。

 稀月くんが私に対してこんなふうに鋭いまなざしを向けてくることはほとんどない。

 けれど、私の発言のなにかが地雷だったらしい。稀月くんが怒っているのがわかる。

 稀月くんに嫌われたかも……。

「ごめん、なさい……」

 泣きそうにつぶやくと、稀月くんが「いえ」と首を横に振る。

「俺のほうこそ、きつい言い方をしてすみません」

「ううん、私が悪い……。ごめんなさい。帰ろう」

 稀月くんが怒るなんて、私はよほど彼の気に触ることを言ったのだ。

 児童文学の棚から離れて速足で歩き始めた私を、稀月くんが追いかけてくる。