月夜の黒猫は、心を攫う


 私の指はまだ、『孤独な魔女の物語』の背表紙にかかっている。それに気付いた稀月くんが、わずかに表情をかたくした。

「その本が気になったんですか?」

「……少し。稀月くんは、昨日の夜に起きた事件を知ってる? 十代の女の子が殺されて心臓を抜き取られたっていう……」

「そういう事件があったことは知ってます」

「その事件と似たような事件が、五年前にもあったんだって。五年前の事件は、この物語をモチーフにしてるんじゃないかって言われてて。今回の事件とも関係があるかもしれないって、朝の番組で言ってた」

「そうですか」

 淡々とした相槌を返す稀月くんは、事件にも物語もあまり興味がなさそうだ。

「そんなことより、帰りましょう。今日は茉莉(まり)さんの病院に寄るんでしょう?」

 稀月がそう言って、私を促す。

 茉莉は、私のひとつ年下の妹だ。幼い頃から心臓が悪くて、ふつうの生活ができない。

 家に帰ってきていることもあるけど、一ヶ月前に体調を崩して、今はまた入院中だ。

 茉莉は寂しがりやだから、入院生活が始まると、しょっちゅう私に会いに来てほしがる。

 だから私も、塾や習い事がない日には、なるべく茉莉に会いに行くようにしている。

『孤独な魔女の物語』を読んだあとだからか、物語のお姫様が茉莉と重なる。