『さて、次のニュースです』

 テレビの朝の情報番組の司会者が、スタジオのテロップを政治関連のニュースから別のものに切り替える。

『これは、非常にショッキングなニュースですね』

 男性の司会者はきゅっと表情を引き締めると、少し固い声でテロップの情報を読み上げ始めた。

『昨夜未明、東京都〇〇区の路上で、十代の女性が血を流して倒れているのを発見されました。通報を受けた警察、救急隊員が駆け付けましたが女性はすでに亡くなっていて、体からは女性の心臓だけが抜き取られていたそうです。女性の胸には銀のナイフが刺されており、そばに落ちていたバッグ等の持ち物から何か盗まれたような形跡はありませんでした。警察は女性に恨みを持つ人の犯行ではないかということで捜査を進めているそうです。こちら、非常にショッキングで怖い事件ですが……。どう思われますでしょうか、金井(かない)さん』

 司会者の男性が、コメンテーターを務める女性評論家に意見を求める。

『そうですね……。被害者の女性と犯人の関係性はわかりませんが、殺害して心臓を抜き取るって……。夜遅い人通りの少ない路地裏だったとはいえ、その場で犯行を行ったのだとしたら、なかなかすごいことというか……。それと少し思ったが、この事件は数年前に起きた《孤独な魔女の物語》事件を連想させるな、って』

『それは、私も思いました』

 横から、別のコメンテーターが口を挟む。

『そうですね。五年前ですか。今回と同様に、十代の男女が殺されて心臓を抜き取られるという事件が数件、立て続けに起こりました。どの方も、似たような銀のナイフを胸に刺されていて、犯人が『孤独な魔女の物語』という童話に見立てているのではと話題にもなりましたね』

 そう言って、司会者がスタジオのテロップのシールをはがす。その下から出てきたのは、『孤独な魔女の物語』という外国の作家が書いた童話の翻訳本の写真だ。