主人公の魔女は、何百年も前から森の奥にある家でひっそりと暮らしている。

 百年以上も生きていて、見た目も年をとらない魔女は、世界を滅ぼすような恐ろしい魔法を使う得体の知れない女だと怖がられ、魔女の住む森に近付く人間はいなかった。

 だが、ほんとうは、魔女は恐ろしい魔力など持ってはいなかった。魔女が年を取らずに長生きなのは、特別な《心臓》を持っていたから。

 魔女の《心臓》には、病を治して若さを保つ力がある。だから、生まれつきの魔女はふつうの人間よりも長く生きることができるのだ。

 ひとりぼっちで暮らしている魔女の話し相手は、使い魔の黒猫だけだった。

 あるとき、魔女が木の実を摘みにでかけると、森の泉のそばに、輝く金色の髪をした美しい少女が倒れていた。少女の顔は青白く、今にも呼吸が途絶えそうになっている。

 よく見ると、少女が着ているローブには王家の紋章が刺繍されていた。

 少女は、森の外にあるお城で暮らすお姫様だったのだ。

 使い魔の黒猫は反対したが、魔女はお姫様を森の外まで送り届ける。

 お姫様とはそれきりだと思っていたが、しばらくして、お姫様が森の魔女に助けてもらったお礼を言いにやってきた。

 魔女はそのとき、お姫様がある物を探すために森を訪れていたことを知る。

 お姫様が探していたのは、人間の国で古くから言い伝えられている特別な果実。それは、どんな病も治すことのできる魔法の果実で、満月の夜にだけ見つけられるという。