月夜の黒猫は、心を攫う


「もしかしたら戸黒は、二回目に君を攫ったときに、わざと捕まったのかもしれない。これ以上、自分の運命の魔女を傷つけないために」

 烏丸さんは、戸黒さんと椎堂の母のことをそんなふうに言っていた。

 だけど、戸黒さんが捕まったからといって、椎堂の母が私の《心臓》を奪おうとしていた事実に変わりはない。

 NWIは、問題のあった家に魔女の私を戻すことはできないと判断し、私は正式に椎堂家を出ることになった。

 出るというのは、ただ単純に家から離れるということではない。

 椎堂家に関わる人たちの記憶から、椎堂 瑠璃という人間がいたという事実を全て抹消するということだ。

 NWIには、魔女や使い魔に関して何らかの事件に関わった人たちの記憶を消すための特別部隊がある。その部隊が秘密裏に動けば、椎堂家に瑠璃という養女がいた記憶そのものがなくなるそうだ。

 椎堂家の両親も、使用人たちも、父の仕事関係で私の存在を知る人たちも、それから、茉莉も……。

 私の存在を忘れてしまう。

 だから、茉莉の記憶から消えてしまう前に、私は茉莉に会いに来た。

 これが最後になるとわかっていたけど、茉莉にはほんとうのことは何も言わなかった。言ってはいけなかった。

 それが、茉莉と会うためにNWIから指示された決め事だったから。