月夜の黒猫は、心を攫う


「わあ、お姉ちゃん……、どうしたの?」

 椎堂家に引き取られてからずっと、私は茉莉の前では控えめにしていることが多かった。

 私に抱きついたり、くっついたりしてくるのは、いつも甘えん坊な茉莉のほうから。

 私のほうからこんなふうに茉莉に抱きついたのはたぶん初めてのことで……。だから、茉莉は少し戸惑っているみたいだった。

 でも、どうしても茉莉を抱きしめずにいられなかったのは、これがきっと、最後になるから。

 何も言わずに茉莉の肩におでこをくっつけて黙っていると、茉莉が「お姉ちゃん?」と呼びかけてくる。

「もしかして、家から離れて留学先に戻らなきゃいけないのが淋しいの?」

「……、そうかな。たぶん、そう」

 茉莉の肩に頭を預けたまま小さく頷くと、茉莉がふふっと笑って私の背中をぽんぽんっと軽く叩いた。

「そっかあ。お姉ちゃんも淋しいのかあ。お姉ちゃんはいつも強いから、淋しいのは茉莉だけかと思ってた」

「……そんなことない。私は、少しも強くないよ」

「うん。教えてくれてありがとう。淋しくなったら、ひとりで頑張らないでいつでも茉莉に連絡して。大丈夫。茉莉はどこにいてもお姉ちゃんの味方だよ」

 茉莉に言われて、胸の奥がジンと熱くなる。

「私も……、どこにいても茉莉の味方だよ。それに、茉莉のお姉ちゃん……」

 涙をこらえて、震える声でそう言うと、茉莉がうなずく。

「うん。茉莉、お姉ちゃんのこと大好き」

「私も、茉莉が大好き」

 茉莉は、お伽話のお姫様のように優しくてかわいくて。大切な妹。

 どこにいても、会えなくなっても、それは絶対に変わらない。

 私と茉莉はぎゅっと抱きしめ合うと、お互いにちょっと泣き笑いしながらお別れの挨拶をした。

「またね、お姉ちゃん。稀月くん」

 そう言って手を振る茉莉に、

「さようなら、茉莉さん」

「ばいばい、茉莉」

 私と稀月くんはそんな言葉を返す。