月夜の黒猫は、心を攫う


「でも、今日こうして会いに来てくれたから嬉しいよ。ありがとう、お姉ちゃんも稀月くんも」

 茉莉の無邪気な笑顔にほっとする。けれど同時に、チクリと胸が痛んだ。

 茉莉はほんとうに何も知らないのだ。これまでのことも、これからのことも。

「私も茉莉に会えて嬉しいよ」

 私が笑いかけると、茉莉が花が開くようなかわいい笑顔を返してくれた。

「ねえ、お姉ちゃん、稀月くん、留学先での話を教えて」

 それから、茉莉に言われて、私たちは架空の留学先について話した。

 椎堂の母は茉莉に、私がアメリカで一年間の語学留学をしていて、稀月くんもそれに付き添っていると説明しているようで……。

 ここに来る前に、私と稀月くんはふたりで、留学先として設定されている州について、インターネットでいろいろと調べた。

 気候、有名な食べ物や観光地。実際には行ったこともない知識だけの情報なのに、茉莉は嬉しそうに私と稀月くんの話を聞いてくれた。

「今度帰って来るときは、なにかアメリカっぽいおみやげも買ってきてね」

 茉莉にせがまれて、「わかった」と答えるとき、また胸がチクリと痛む。

 茉莉に話したことはほとんどがウソだったけど、ほんとうのことも少しだけ話した。

 留学先では、蓮花さんという美人で優しいお姉さんにお世話になっていることや、沙耶ちゃんという新しい友達ができたことなどだ。

 蓮花さんが香りの研究をしていて、私に合う香水を作ってくれたことも話したら、茉莉は「素敵だね〜」と、興味深そうに目を輝かせていた。