月夜の黒猫は、心を攫う


「大丈夫。茉莉さんは、今までと同じように瑠璃のことを待ってますよ」

 振り向くと、稀月くんがふっと笑いかけてくれる。

「うん、ありがとう」

 稀月くんの言葉と優しいまなざしに勇気をもらった私は、ひとつ深呼吸してから個室のドアをノックした。

 コンコンッ……。

 遠慮がちに鳴らした音に、「はーい」と少し幼さの残るかわいい声が返ってくる。

 スライド式のドアに手をかけると、私が開けるより先に内側からドアが開いた。

「お姉ちゃんっ……、ひさしぶりっ!」

 ドアが開くなり、茉莉が息を弾ませながら私に飛びついてくる。

「わーい、やっと会えた」

 そのまま、ぎゅーっと思いっきり抱きしめられて、私は棒立ちで固まってしまう。

「あ、あの……。茉莉……? シュークリーム、崩れちゃう……」

 ケーキ屋の箱を持っていた左腕をまっすぐ横に持ち上げると、茉莉がふふっと無邪気な笑い声をあげた。

「ふふっ……。ひさしぶりに会って、第一声がシュークリームの心配って。そういうとこ、ほんとお姉ちゃんだよね……」

 クスクスと楽しそうに笑いながら、茉莉が私に回していた腕を離す。

「中に入って。稀月くんも、一緒にどうぞ。茉莉も、お母さんに頼んでふたりと食べるケーキを用意してもらったの」

 私と稀月くんは、笑顔の茉莉に部屋の中に誘われて、ソファーに腰かけた。