戸黒さんが捕まった二ヶ月後の日曜日。

 私と稀月くんは、ひさしぶりに東京に出かけることになった。

「なあ、稀月くん。ほんとうに、俺、ついていかなくて大丈夫?」

 玄関で靴を履いていると、玄関まで見送りに出てきた大上さんが心配そうに聞いてきた。

「大丈夫だよ。瑠璃を守るのはおれひとりで充分。それに、東京駅からは烏丸さんが車で迎えに来てくれるし」

 スニーカーのつま先をトントンと鳴らしながら、稀月くんが大上さんにちょっとそっけなく言葉を返す。

「でもさあ、数日後の夜はもう満月だよ。戸黒は捕まったけど、魔女の心臓を狙うRed Witchの使い魔がどこから現れるかもわからないし……」

「大丈夫だって。イヌガミは心配しすぎ」

「イヌじゃなくって、オオガミね。だいたい、いつも過保護なくらいに瑠璃ちゃんのこと心配してる稀月くんがどうして今回はそんな冷静なんだよ」

「おれはいつもどおりだよ。それに、向こうで一日泊まる予定だし。蓮花さんと半日離れただけで死にそうになるイヌガミにはついてこれないだろ」

「そりゃあ、蓮花と離れるのは寂しいけど……。でも、仕事とプライベートはちゃんと分別つけられるよ。おとなだし!」

 稀月くんの言葉に、大上さんがむっと唇を尖らせる。

 一週間前に、私と稀月くんの東京行きが決まってから、大上さんと稀月くんが交わす会話はずっとこんな感じだ。

 私たちに付き添ったほうがいいんじゃないかと主張する大上さんの言葉を、稀月くんが適当にあしらう。そうしているうちに、出発日の朝がきてしまった。