「なるほど。最期だからといろいろ話を聞きたがると思えば……。彼の助けを待っていたわけですね。やはり、情けなど無用でしたか」

 稀月くんの登場に、一瞬呆気に取られといた戸黒さんが、メガネの縁を指であげながら、くつりと笑う。

「ときに、夜咲くん。いちおう確認なのですが、君の魔女の《心臓》を私にいただくことはできますか?」

「そんなこと、できるわけないだろ」

 冗談めかして訊ねてくる戸黒さんに、稀月くんが攻撃的に牙を向く。

「ですよね。では、やはり私が……」

 銀のナイフを持ち直した戸黒さんが、真っ直ぐに私に向かってくる。

 割れた天窓から降り注ぐ満月の光の下、銀のナイフが鈍く光る。

 けれど、それは私の胸に突き立てられることはなく、カランと床に落ちて転がった。

 私の前に庇うように立ちはだかった稀月くんが、戸黒さんの手をつかまえて捻ったのだ。

「ここまでだ、戸黒」

 稀月くんが低い声で牽制する。そのタイミングで、外から部屋のドアが開いて、烏丸さんと大上さん、それから見たことのないNWIの人たちが入ってきた。

 前回は、戸黒さんから蛇玉の攻撃を受けて確保のチャンスを逃したせいか、みんな、鼻と口を覆うマスクをつけて、目にもシールドをつけている。

「Red witch 第18ガルドのリーダー戸黒、確保」

 烏丸さんが、よく通る声で宣言して、戸黒さんに手錠をかける。

 烏丸さん達はかなり警戒しているようだったけど、戸黒さんは蛇玉を使って逃げたりはしなかった。

 これまで、NWIの手の内を何度もすり抜けてきたはずの戸黒さんも、観念したのか、烏丸さんにおとなしく引っ張られていく。

 けれど、部屋から出て行く直前、稀月くんのほうを振り向いてふっと笑った。

「夜咲くん、瑠璃さん。私の魔女をどうぞよろしく」

 そんな言葉を言い残して、戸黒さんは私たちの前から姿を消した。