月夜の黒猫は、心を攫う


「さあ、今度こそほんとうにおしゃべりはおしまいにしましょうか。ねえ、瑠璃さん」

 戸黒さんの三白眼が、ぎらりと不気味に輝く。

 時間稼ぎも、ここまでか……。

 月明かりに鈍く輝くナイフの切先から目を逸らしたとき。

 パリンッ――。

 天窓のガラス窓が割れて、満月を横切るように黒い影が部屋の中に飛び込んできた。

 硝子の粒が、月の光に照らされて雨のように降り落ちてくるのが見えて、横を向いて目を閉じる。

 避けられない……。

 ぎゅっと唇を噛み締めて、硝子の雨を受け止める覚悟をしていると、ものすごい速さで飛び込んできた黒い影が、私の身体をベッドごと攫った。

 ほんの少しの時間差をあけて、私がいたあたりに硝子の粒が落ちるのが見えて心臓が凍る。

 もし数秒遅れていたら、私は硝子の雨を浴びていた。

 恐ろしさに震える私の耳に、

「驚かせてごめん、瑠璃」

 聞き慣れた声が届く。天窓から飛び込んできた黒い影は、稀月くんだった。

 稀月くんが助けに来てくれていることは、少し前に天窓の上を黒い影が横切るのが見えたときからわかっていた。

 だから、一秒でも長く戸黒さんの気を逸らすような話をして、稀月くんがここから救い出してくれるのを待っていたのだけど……。

 まさか、天窓から飛び込んでくるとは……。