月夜の黒猫は、心を攫う


「わかっていただけたようでよかったです。童話に重ねて若い魔女ばかりが《心臓》を狙われるのはそういう理由ですよ。さあ、そろそろおしゃべりはおしまいにしましょうか」

 真顔になった戸黒さんが、銀のナイフを指ですーっと撫でる。

 今度こそ、ほんとうにヤバい。身体をこわばらせたその瞬間、天窓の向こうに黒い影が見えた。

 影は、天窓を右から左に飛び跳ねるように移動して、ベッドに差し込む金色の満月の光を一瞬遮る。

 それを見て、私の覚悟が決まった。

「少し……、私の心臓を奪うのは、少しだけ待ってください」

 浅く息を吸って吐くと、私はドキドキしながら戸黒さんに訴えかけた。

「なぜです?」

「なぜ、って……。死ぬ前にお願いしたいことがあるからです。最後に、少しだけでも茉莉と話せませんか?」

 私がそう言うと、戸黒さんがわずかに眉間を寄せた。

「それは難しいですね」

「どうしてですか? 私が突然いなくなったこと、茉莉はどう思ってますか?」

「それを、黙って茉莉さんの前から消えたあなたが聞くんですか?」

 そう言われると、私は何も答えられない。でも、黙って消えざるを得なかったのは、戸黒さんのせいだ。

 無言でにらむと、戸黒さんが冷たい目で私を見おろして、ふっと笑った。