月夜の黒猫は、心を攫う


 手首の拘束具がはずれないか、腕を動かしたり、拘束具の輪から手を抜こうと試みたり。いろいろやってみるけれど、頑丈に作られた鎖ははずれない。

 天窓の向こうの満月を見上げながらため息を吐いたとき。

「目を覚ましたみたいですね」

 部屋のドアが自動で開いて、戸黒さんが入ってきた。

 ベッドの上で顔を横に向けた私に、戸黒さんがニヤッと笑いかけてくる。三白眼気味の目を少し細めた彼の笑みは冷ややかで、おもわずゾクリと震えてしまう。

「私の手術室(オペ室)へようこそ、瑠璃さん。あなたがこんなところへ逃げてしまったせいで、新しい部屋を用意するのに時間がかかってしまいましたよ。東京に比べるとずいぶん手狭ですが許してください。その代わり、天窓の向こうに見える月は最高でしょう」

 そう言いながら私のほうに歩みよってきた戸黒さんが、上からぬっと顔を近付けてくる。そうして、私の目の前でまたニヤリとした。

「さて、邪魔が入る前に始めましょうか」

 戸黒さんがそう言って、ベッド脇に置いてあったサイドボードの引き出しに手をかける。そこから取り出したのは、鈍く光る銀色のナイフだった。

 私を見つめる戸黒さんの瞳には、少しの情けも迷いもない。

 この人はきっと、何の躊躇いもなく私の胸に銀のナイフを突き刺すだろう。

 童話の魔女のように自分の胸に銀のナイフが突き立てられるさまを想像すると、怖くてたまらない。

 それでも、できることなら、なんとかして一秒でも長く生きながらえたい。